長い歴史と伝統に培われた着物には、日本独自の美しさがある。一枚ずつ身体にあわせて身につける日本古来の衣服の美。それは、日本人の心に深く根づいている。お正月や成人式、卒業式など、限られた時しか出番がなくなった着物だが、ここ京都には西陣織や友禅染といった日本を代表する素晴らしい織物が着物として日々の生活に溶け込んでいる。京都の玄関口であるJR京都駅はもちろん、町中の至るところで着物姿で行き来する人々を見かける。そういった風景も、京都らしさを構成する要素のひとつかもしれない。
西陣における織物の起源は平安時代に遡る。宮廷の織物を一手に引き受けていた「織部司」が平安中期に大舎人町へ移り自ら織物業をはじめると、たちまち人気を博すこととなり、それは鎌倉、室町と時代が移っても衰えることはなかった。室町時代の応仁の乱で京の街が焼け落ちてからは、地方に散らばっていた業者たちが西軍の本陣として使われていた大宮辺りに集まって大舎人座を作り、織物復興に努めた。こうして「西陣」の名が生まれ、やがてここで生産される織物は「西陣織」と呼ばれるようになった。
その後、西陣は幕府の保護を受けながら発展していく。江戸時代に入り、綿織物の台頭や東京への遷都により活気を失った西陣であるが、最新技術の導入や新しいデザインの開拓により日本の伝統的な絹織物産地として全国に名を馳せることになる。
一つ一つの工程を職人が分業し、豪華絢爛な染へと仕上げる友禅染。三百年前の元禄時代、宮崎友禅斎という扇絵師が扇を藍一色の単彩風に染めた「茶屋染」の技術を基本にして、着物の柄を染めだしたのが始まりだ。これが好評を得、全国的に大流行する。友禅斎の死後、江戸時代になるとぜいたく禁止令が出され、金紗や刺繍、総鹿子などの模様が禁じられた。その禁令にふれないような美しい染物を創りだしたことにより、友禅染は女性の心を掴みながらそのブランドを確立していったのである。明治時代になると、広瀬治助により科学染料を使った型友禅が完成された。物によっては百枚を超える型紙を使い、それまでの挿し友禅では表現することのできない独自の美しさを表現した。
現在、「手捺染」という友禅染の伝統的な技法で染めたアロハシャツを売るお店がある。右京区西院にある「PAGONG」がそれだ。老舗京友禅の染屋の直営店として日本の美しき伝統を後世に残そうと、六千個にも及ぶ型友禅の図案をアロハシャツとして再び世に出すための商品開発に取り組んでいる。
奥深い歴史を持つ西陣織や友禅染が現代風に生まれ変わっても、その独特の優美さに遜色はなく、京都の街になんなく馴染んでいる。長い間愛でられてきた美しいものは、時が流れても変わることはなく、時代とともに脈々と受け継がれていくのだ。
参考文献
京都らしいものの現在 出版:株式会社のぞみ 2004年発行
PAGONG本店 075-322-2391
京都市右京区西院西溝崎町17
営業時間 11時〜18時 定休日 不定休
祇園店 075-541-3155
京都市東山区八坂新地清本町373
営業時間 13時〜21時(12月〜2月の間は19時30分まで) 定休日 水曜日